背景

文化芸術を振興し、よりよく社会に活かすためには、その基盤である「担い手」の状況を詳しく把握することが大切です。しかし、実演家・スタッフの活動実態についての統計調査がないことから、芸団協では、50年にわたり継続的に実態調査を実施しています。分野ごとの特徴を捉えるとともに、分野を横断し実演芸術の「担い手」全体を見渡せる、国内唯一の基礎調査です。

 

調査結果は、国や地方公共団体が芸術振興策を策定する際に参照されたり、芸術系大学で学生に将来のキャリアを考えさせるための文献として用いられたりしています。

概要

主催・共催
芸団協
対象
実演家、実演芸術スタッフ
期間・場所
1974年~(5年ごとに実施)
活動概要
芸団協正会員団体に所属する個人の実演家・スタッフを中心にアンケートを実施。
実演家は8分野、スタッフは6分野にわたっています。
属性・活動内容・収入等についての基礎情報と、実施時に合わせた時事的テーマや仕事環境などについての意識を訊いたうえで、分野毎および分野横断的な分析を行い、実演芸術業界の担い手の実態に光をあてるものです。
協力・後援
芸団協正会員団体
実演家調査
 一般社団法人日本演芸家連合
スタッフ調査(映像系)
 日本映画監督協会 
 日本映画撮影監督協会 
 日本映画・テレビ照明協会
 日本映画・テレビ録音協会
 日本映画・テレビ美術監督協会
 日本映画・テレビ編集協会
 日本映画・テレビスクリプター協会(以上第10回調査)
助成・協賛
第10回調査:2019年度文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」

詳細

第10回調査(2020年)

<対象>
芸団協正会員団体に所属する個人の実演家・スタッフが中心
有効回収数は、実演家部門 1,572、スタッフ部門366

<調査期間>
2019 年 8 月 10 日~ 9 月 2 日

<対象分野>

実演家:8ジャンル(伝統演劇/邦楽/邦舞/演芸/現代演劇・メディア/洋楽/洋舞/演出・制作)
スタッフ:6ジャンル(ライブ系の演劇・ミュージカル/コンサート/ライブ系その他、映像系の劇場用映画/テレビ/映像系その他)

<設問内容>
属性・生活にかかる基礎情報、活動内容・キャリア・収入等の活動情報、その時々の自治的テーマに関するもの(第9回は契約や補償関連など)、時事テーマに関する意識調査など

<分析・報告>
経済学や統計学などの観点も踏まえつつ、分野毎の分析と、分野横断的な分析を実施。報告書にまとめ、冊子を文化芸術関係団体や研究者等へ無料配布するほか、WEBでも公開。

実施結果・成果

関わった方々の声

調査に携わった実演家・スタッフ

上原 真佐輝さん(箏曲演奏家・日本三曲協会)

「協会組織に期待すること」を問う質問で、「邦楽」では「次世代の育成に取り組むこと」が 1 位に来ていました。それだけ、後継者育成が重要だと思いながら困難も感じている証ではないかと思います。(中略)高齢の実演家が多いジャンルですが、世代交代も始まっていて、これから、若手演奏家が活躍できるようになっていってくれたらよいのですが。

桂 歌春さん(落語家・落語芸術協会)

一旦、不況や大災害、疫病などで世間が自粛ムードになると、最初にしわ寄せを受ける立場です。そして身体だけが資本です。健康で続けていかなくてはいけません。安心して続けられるには社会保障制度の充実がいちばんでしょうが、実現までは長い長い年月が必要です。それまでは日々の暮らしに追われるのが現状か、と思います。

大場 泰正さん(俳優・日本俳優連合)

今回の調査ではインターネット関連の設問を新たに加えました。(中略)まだまだ関わっている人数が少ないものの、メディア出演全体の平均日数が 46 日ということを考えれば、配信番組の平均が 24.2 日というのは既にかなり高い数字だと思います。次回 5 年後の調査では確実に数が増えるのではないでしょうか。このことをどう捉えるか。(中略)近年の(ネットフリックスに代表される)配信作品の質の高さ、豊富な予算を考えれば、実演家としては大いに歓迎すべきで、むしろ前向きに捉えたいです。もちろんプロジェクト委員会でも度々話されたバリューギャップの問題など、条件面の改善は望まれるのですが。

高島 基明さん(ベーシスト・日本音楽家ユニオン)

第 10 回実態調査では、調査に拾われていない対象者もありますが、各ジャンルの特徴が読み解ける報告書になっていると思います。インターネットについてはコンテンツのダウンロード購入以外にサブスクリプションサービスが始まって利用者が広がっている状況です。伝統芸能では「アーカイブ」としての利用も期待されていくでしょう。
今回の調査ではインターネットでのコンテンツ提供に関わっている実演家がまだ少ないのですが、一つのメディアで作成したものが他のメディアで利用される状況の把握もまだまだなようです。今回の調査が今後の進展に寄与することを願っています。

小川 洋一さん(日本映画撮影監督協会)

「同じ仕事でも報酬の額が下がってきている」の回答が、(中略)15 年前から報酬の額は上がるどころか年々下がってきていることが見て取れます。そして、労働環境で「昨年 1 年間に経験した仕事上の傷害(ケガ)治療費等の負担状況」では、(中略)フリーランスの労働環境の悪さと長年改善されていない事が指摘されます。(中略)
文化庁、経済産業省、厚生労働省が枠を超え一体化して取り組んでくれる事を願うとともに、この実態調査が活用され一助となることを切に願う次第です。

岩城 保さん(日本照明家協会)

芸能実演家・スタッフの仕事や生活の実態について、政治家や有権者が具体的に知る機会はあまり多くありません。その意味で、この規模でのこういった定期的な調査は、政治家による文化政策の決定や、文化芸術に関心のある有権者が投票行動を選択する上での極めて重要な判断材料となるものであり、時代や情勢の変化も反映されるよう、継続して行われるべきだと感じます。
もしも芸能実演家やスタッフたちが、2020 年の新型コロナウイルスのような大きな感染症流行や、あるいは災害等といった「外的要因」による大きな損失を被った時に、その補償や補填策を行政や公的機関に求めようとするのであれば、なおさらこのような調査を行う意義をしっかりと一人ひとりが理解し、自らの業務や生活実態がより社会的に認知されるよう意識的に協力し合うことが求められるということを、調査の過程を通じて感じました。

今後の展開

基礎研究は継続性が重要ですが、収入を生み出す事業ではないため、常に資金面の課題があります。
文化芸術振興のための基礎データとして安定的に調査が継続できるよう、ぜひ寄付などで応援をよろしくお願いいたします。

関連資料

<過去の調査報告書>
 

第9回調査報告書(2015年発行)
 

※第8回以前の調査報告書(第1回~第8回)についてはお問い合わせください

関連団体/関連リンク

芸団協
「芸術家のための互助の仕組み」をつくろう
芸術家等の活動基盤の脆弱性が、コロナ禍を機にあらためて明るみになりました。仕事が不安定で、収入も低くなりがちな芸術家、スタッフが、安心して安全に働くことができるよう、芸団協では、「芸術家のための互助の仕組み」づくりを提案しています。
https://geidankyo.or.jp/business/safety.html
文化庁
「文化に関する世論調査」
文化庁では、国民を対象に定期的に世論調査を実施しています(近年は毎年)。国民の鑑賞行動や文化活動の状況、また文化芸術に関する意識を調査しています。
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/bunka_yoronchosa.html
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