背景

コロナ禍に全国で中止された文化芸術活動の再開を後押しし、需要の回復を図るため、2020年度文化庁補正予算によりスタートした事業です。地域でのイベント自粛への要請は強く、プロだけでなく、アマチュアや子どもたちの文化芸術活動も長く沈滞し、それまでの経済停滞による活動縮小の流れを大きく加速させることが危ぶまれていました。

 

そのような中、芸団協が全国事務局を担い、都道府県ごとに地域事務局となる団体と連携して、各地の文化芸術関係者へと支援を広げる枠組みが確立しました。この連携の枠組みは、1年2年と実績を重ねるうちに地域の文化芸術関係者を勇気づけ、地域課題に対する協働の機運を高め、新たなチャレンジを次々と生み出しました。

 

人口減少、リソース不足に悩む地域の文化状況を、連携によって好転させる可能性を拓いた本事業。この実績から未来を創る次のステップが求められています。

概要

主催・共催
芸団協、40都道府県の実施主体
対象
<一般向け企画>
一般、子ども、障害者、高齢者、外国人、等

<担い手向け企画>
地域アーティスト・スタッフ、劇場・文化施設、アートNPO・制作会社、等
期間・場所
2020年度~2024年度
全国42都道府県で展開
活動概要
文化庁のコロナ禍の支援として、芸団協が全国事務局となり、40都道府県の文化芸術団体と連携しながら全国各地の文化芸術活動を後押しした事業です。連携・協働をキーワードに、地域の実情に合わせて地域の担い手が主体的に企画を実施することで、地域の人材を育て、地域のニーズに応える事業が多数展開されました。
協力・後援
各地域で、文化芸術団体だけでなく、行政・企業・教育・福祉・観光等の多様な団体との連携・協力体制が実現
助成・協賛
文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会

[2020年度]戦略的芸術文化創造推進事業「生徒やアマチュアを含む地域の文化芸術関係団体・芸術家によるアートキャラバン」
[2021年度]大規模かつ質の高い文化芸術活動を核としたアートキャラバン事業
[2022年度]統括団体によるアートキャラバン事業(コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業)
[2023年度]文化庁文化芸術振興費補助金(統括団体による文化芸術需要回復・地域活性化事業 (アートキャラバン2))
特設サイト
https://jlyp.jp/

詳細

2023年度事業(2023年4月~2024年1月)

 

[1]地域支援事業
29都道府県の文化芸術関係者と連携し、地域事業の展開を支援。「地域課題をともに解決するための地域連携体制の構築」を全国共通テーマに設定し、事務的支援のほか、制作面でも要望に応じてアドバイスし、効率的・効果的な実施を多面的にサポート。

 

[2]全国連携事業
地域を超えて交流したり、学ぶ機会の少ない地域の担い手が集い、情報や課題を共有し、今後の取り組みを共に考える事業。「次世代枠」を設け、地域の若手が全国的な人脈を形成する機会を積極的に支援。
・全国フォーラム「種まきキャンプ」(5月)
・全国オンラインミーティング(全4回)
・地域連携推進プログラム(3地域/全7回)
・全国フォーラム「収穫祭」(1月)

 

[3]全国広報事業
各地の取り組みを集約し発信する事業。ウェブサイトの運営と、SNSでの発信を中心に展開。各地の担い手に光を当て、地域で文化芸術活動を担う仕事の醍醐味を紹介するフォトブック『地域のライブがおもしろい』も発信。

実施結果・成果

2023年度事業

 

<実施地域> 29 都道府県
北海道、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、群馬県、東京都、神奈川県、石川県、福井県、山梨県、静岡県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、島根県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県、大分県、宮崎県

 

<連携団体> 8,842 団体
文化芸術団体を中心に行政・教育・福祉・観光・商工の団体など

 

<企画数> 287企画・1,268本のプログラム

 

<担い手数> 延べ 22,423人
出演:アーティスト、アマチュア、子どもたち
スタッフ:企画制作、技術、広報、ボランティア等

 

<鑑賞者・体験者数> 延べ 272,947人

関わった方々の声

アーティスト・スタッフ

文化施設責任者(関西地域・60代)

共同開催の中で、経験年数の少ないものは数多くの実践経験が積める。経験を積んだ者にはいろんな「気づき」を与えてくれる。同一の目的を持つ人との出会いによってネットワークが拡がり、単独ホールや市町ではなく県域の「アートマネジメント力」が上がっていくという希望を持てる文化事業だと感じてます。

アーティスト(関東地方・30代)

拠点とする自治体の芸術文化活動への資金的支援や助成制度が十分にない中で、多様な形態の活動を支援いただける当プロジェクトは、東京一極集中になりがちな日本の芸術文化活動の、面的・質的な拡がりを促進するものとして、画期的な補助金だと考えます。

劇場職員(中国地方・50代)

今までは、事業予算の少ない地域は、助成金・補助金に合わせて事業計画を立てる必要があった。JLYpのような自由度があると、本気で地域に必要なことや課題を考え、計画を立てることができると初めて実感した。

プロデューサー(東北地方・40代)

県・市町村や自治体出捐の文化財団の機能不全により文化芸術に取り組む余力がない現状で、この事業で、図らずも公的文化サービスの新たな担い手を作り出すことができた。この取り組みがなくなれば地方における文化芸術の衰退の「歯止め」の機能を失います。

芸術団体制作者(九州地方・30代)

文化芸術においての「地産地消」という概念は、あまり重要視されていなかったように思うが、この機会を経て、その重要性と便益性に気付かされた。

プロデューサー(北海道・50代)

芸団協のような知見の豊富な団体(中間支援団体)の伴走が重要であったと感じる。芸団協からのアドバイスや指摘が、要所要所で様々な気づきに結び付いた。

参加者・体験者

部活動顧問教諭(群馬県)

プロの先生方と素晴らしい経験をさせていただき、生徒が成長する瞬間に立ち会うことができました。感謝でいっぱいです。

公演観客(秋田県)

秋田に、このように活動している団体がこんなにいたのは知らなかった。秋田の若者が活動する場所をこれからもつくり、継続していってほしい。

公演観客(北海道)

私自身は聾で、聞こえる娘と一緒に来たのですが、音楽も劇も一緒に笑いながらずっと集中して観ることができました。

公演を鑑賞した中学生(島根県)

プロのピアニストの演奏を初めて聞いて、動画サイトなどの音源で聞くよりも迫力があった。

公演観客(香川県)

こんな田舎で本物の音楽に触れあえて最高でした。心まで震える感動は久しぶりです。

今後の展開

地域の文化芸術環境は厳しさを増す一方です。地域の人々、子どもたちが享受できる機会は、地域によってますます格差が広がり、人材不足も深刻です。限られた文化予算には短期的な成果を求められ、人への投資や土壌づくりといった長期的な視点で取り組むことが困難になっています。

 

この事業は、まさにそこに働きかけるものでした。機会格差を減らすため地域全体に眼差しを向け、若手にどんどんチャンスを与えてこれまでできなかった人材投資を行いました。当事業を通して、一定の予算とビジョンがあれば担い手は大きく飛躍し、地域の人々に深く広く響く文化芸術事業が展開できることが証明されました。

 

全国の文化芸術関係者は、これまで様々な課題に対して個々に奮闘してきましたが、この事業は連携・協働することでブレークスルーが作れる可能性を大きく広げました。文化庁の支援が終了した今、これをどのように繋げていくか、次の方策を模索しています。

関連資料

フォトブック『地域のライブがおもしろい

 

地域の文化芸術関係者の担い手に光を当てた、これまでにないフォトブック。

地域で活動する醍醐味を、多様な職種・職能の担い手が語ります。

 

地域の人材不足という課題に対する一つのアプローチとして、

全国の公立文化施設、図書館、大学、コワーキングスペース等に配布しました。

 


 

応援ムービー『ライブのリレー』 (JAA賞グランプリ受賞)

 

コロナ禍初年度の2020年度に制作した、全国の文化芸術関係者へエールを送る動画です。公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(JAA)が主催する「第59回JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール」のデジタル広告部門において、JAA賞グランプリを受賞しました。エール・アンバサダーを務めていただいた松任谷由実さんの楽曲『春よ、来い』に、ご協力いただいた61の個人・団体の想いと、その先にいる全国の関係者の想いを乗せて、日本の多彩なライブ・舞台芸術・芸能を紡いだ作品です。

 

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