芸団協では、実演芸術を取り巻く環境を改善していくために、実演芸術の実態把握と携わる人々の声から課題を明らかにし、国への提言や、業界・社会への提案をおこなっています。その土台となるのは、50年にわたり5年に一度実施している「実演家・スタッフの実態調査*」、そしてテーマごとに行われる調査・研究と、多岐にわたる分野の専門家組織との密なコミュニケーションです。
*スタッフ版は2005年以降

法整備を提言する
-文化振興の共通認識と責務の礎-

日本では、2001年に文化芸術振興基本法(現:芸術文化基本法)ができるまで、文化芸術振興の根拠となる法律がありませんでした。芸団協では、1984より研究を重ね、関係団体とともに政策提言をおこなってきました。

文化芸術振興基本法は、文化芸術の振興の「理念」、そして政府と地方公共団体の「責務」を明らかにし、文部科学大臣に「文化芸術の振興に関する基本的な基本方針」の策定を義務づけました。2001年からは文化芸術振興基本法の制定を推進してきた実演芸術、映画、美術など関係団体と「文化芸術推進フォーラム」を構成。超党派・文化芸術振興議員連盟を通して国会議員への勉強会や政策提言活動を継続し、2017年の「文化芸術振興基本法」から「文化芸術基本法」への改正にあたっても、大きな役割を果たしました。

もう1つの法整備としては、文化芸術の公演は、主に公立文化施設や民間の劇場等で鑑賞できますが、公立の施設は、戦後より公の施設に位置づけられ、市民利用(貸館)を中心に設置され、専門の芸術公演に必ずしも適した利用環境ではありません。また、運営方針などが明確化されていないことで、必要な人員配置がなされていない状況がありました。そのため、海外の劇場の位置づけや法整備を研究し、「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」の成立に向けた提言活動をおこないました。

・2001年 文化芸術振興基本法(現:芸術文化基本法/2017年改正)
・2012年 劇場、音楽堂等の活性化に関する法律

その他、実演芸術の統括団体としておこなっている提言活動については、リンクよりご覧ください。
https://geidankyo.or.jp/business/past.html

文化政策の充実を提言する
-文化芸術の基盤強化を求めた「もっと文化を!」キャンペーン-

2010年、文化予算を国家予算の0.5%に高めることを求める「もっと文化を!」キャンペーンを展開し、全国から63万筆の署名が集まり、国会請願をおこないました。これは、文化芸術振興基本法の制定10年が経過しつつも、2009年の政権交代による事業仕分けで国の文化政策の基盤の弱さが見え隠れしたことに起因しています。

請願は保留となりましたが、請願項目を見直し、2012年に新たに「文化芸術政策を充実し、国の基本政策に据えることに関する請願」として届け、第180回国会にて採択されました。文化政策に係る請願が国会で採択されたことは史上初めてで、同年の「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」制定の後押しにもなりました。

環境整備を提言する
-創造の基盤である劇場・ホールの危機-

実演芸術の創造と享受に劇場、ホールは欠かすことが出来ません。この基盤に今危機が進行しています。

昭和初年まで、日本は全国に芝居小屋が多数存在する劇場大国でした。それが戦争で消失し、映画館に変わって行きました。再興にあたっては、民間の専門劇場、能楽堂、寄席、そして地方公共団体の文化会館などの設置が進められ、高度経済成長期からバブル崩壊までホールラッシュと言われました。この基盤が老朽化を迎え、今、危機に直面しています。

東京オリンピックを控えた2016年、東京都内ではポピュラー音楽の公演に適したアリーナや、バレエ、オペラ公演にむいた複数の大劇場の閉鎖や建替に直面しました。そしてオリンピック後には、国立劇場再整備の遅れに加え、他の大劇場の改修が続き、公演会場が不足する事態が繰り返されています。
このまま放置することは将来に禍根を残しかねません。その象徴的課題とも言える「国立劇場再整備」を速やかに進めるべく問題提起を行っています。
https://geidankyo.or.jp/archives/4046

近年に閉鎖された劇場、改修が予定される劇場

■首都圏で2005年~2015年に閉鎖された劇場

2005年閉鎖:朝日生命ホール/2006年閉鎖:三百人劇場/2008年閉鎖:シアターアプル・新宿コマ劇場/2009年閉鎖:シアタートップス/2010年閉鎖:カザルスホール・厚生年金会館/2012年閉鎖:東京都児童会館/2013年閉鎖:前進座劇場・ル・テアトル銀座/2014年閉鎖:SHIBUYA-AX/2015年閉鎖:タイニイアリス・青山円形劇場・青山劇場・津田ホール・五反田ゆうぽうと

また、公演制作にあたるスタッフの労働環境・創造環境の整備を推進するため、「劇場等演出空間運用基準協議会(基準協)」を構成し、2007年より関係者とともに『劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン』を発行。多様な専門分野の人々が公演制作にあたる共通認識を醸成するため、ガイドラインの普及に取り組み、文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン」(2022)でも参照されています。時代に応じ、関係法令の改正や新たな法律の施行もふまえて見直しを行い、2024年には第4版となりました。
 

危機を乗り越える提言をする
-コロナ禍による計り知れぬ影響を察知して-

あの時、演劇、音楽など実演芸術の仕事が突然止まった。実演家やスタッフは2020年に突然、仕事と収入を失い、先々の仕事の依頼がこない事態に陥りました。この状況は、緊急事態宣言が解除されても、観客数制限の発動、そして感染を恐れる人々が鑑賞行動を控え、その影響は2020年にとどまらず、見通しの不透明さから転業・廃業の加速や若手の業界離れなどから人材不足が深刻な問題となっており、また依然として鑑賞者数も回復していない状況です。
芸団協と文化芸術推進フォーラムは緊急調査を実施し、業界への影響の実態を踏まえ、文化庁、文化芸術振興議員連盟、政府への働きかけ、緊急支援策を提言しました。前代未聞の危機を前に、多方面へのヒアリング、継続的調査、支援手法の開発提案などを行い、実演家・芸術家個人、実演芸術団体へ緊急支援が、補正予算によって実現してきました。
 

セーフティネットを提言する
-「芸術家のための互助の仕組み」をつくろう-

コロナ禍の危機を乗り越えて、その教訓として顕在化した課題が、雇用ではなく働く実演家、芸術家のセーフティネットの問題です。
芸団協では、設立時よりおこなっている『芸能実演家・スタッフの活動と生活実態調査』を通して、多様な就業形態や不安定な収入構造を把握していましたが、コロナ禍でその影響が大きく表面化しました。2023年度に行った調査では、所得税の確定申告(青色・白色)をしているフリーランス(個人事業主)にあたる人が約80%で、労災補償や失業保険の適用がありません。また、協会などの組織に属さない実演家、スタッフの増加で支援しようにも全体が把握できず、芸術家であることの証明が困難で、支援の情報がいきわたらない現実が浮かび上がりました。
 
ユネスコ「芸術家の地位に関する勧告」(1980年)では、「地位」について「芸術家が社会において果たすことが期待されている役割の重要性に基づき、その仕事の断続性、所得の変動という芸術活動の特徴を考慮し、雇用されている他の社会集団と同様の社会的保護が求められる」と各国政府に勧告している。そしてフランス、ドイツ、韓国、アメリカなどの国々は、それぞれの方法で「有償の契約」の存在を根拠に芸術家を認定する仕組をつくっています。
 
質の高い芸術を創造が行われ、豊かな文化環境をつくるには担い手が必要です。
芸団協では、そのための関係業界が連携して互助の仕組み(セーフティネット)」の実現に向け、海外の先進事例を参考に研究と関係者との話し合いを進めています。
https://geidankyo.or.jp/business/safety.html